ライ麦畑でつかまえて - J・D・サリンジャー(1951)

『ライ麦畑でつかまえて』は、勿論良い意味での、有り触れた物語である。だからこそ多くの共感を呼び、長らく皆に愛される小説なのだと、おれは考えている。 物語の随所に、語り手であり、主人公であるホールデンの心情吐露が見られる。それは、汚れた大人社…

イリヤの空、UFOの夏 - 秋山瑞人(2001)

途中まで、少々壮大なだけの、青春ラブストーリーだと思っていたのだが――いや、確かにそうでもあるのだが、しかし最後まで読み終えて、おれはその感想を捨てることになる。名作であると思うので、少しでも読もうという気持ちがある人は、この先には目を通さ…

トカトントン - 太宰治(1947)

『トカトントン』は、虚無感に苛まれて日々生きている人に是非読んで頂きたい、短編名作である。話の筋は、「何かに感激し、奮い立とうとするたびに、トカトントン、という金槌で釘を打つ音の幻聴がして、それを聴くと、忽ち何もかも虚しくなってしまう」と…

ソナチネ - 北野武(1993)

『ソナチネ』は、物語よりも、思想が際立った印象の映画だった。まるで暴力の本質を曝け出すようなバイオレンスシーンには、思わず呼吸も忘れて見入ってしまったが、それさえも、監督の思想に基いていると感じた。映画の序盤で、村川は一人の男を溺死させる…